この30年ほどの間でも、PCcwの設計法のみならず
我々、技術屋の考え方も大きく変わっている。
確実に進歩した、と言っていいだろう。
しかし「進歩した」と喜んでばかりいられない。
ここで忘れてはならないことがある。
それは施主の気持ち
「良いものを作って欲しい」
と言うことだ。
こういった気持ちは今も昔も変わらないものである。
当然我々はその要求に対し常にベストを尽くしてきたはずである。
しかし、その中で失敗を経験してきたことも事実である。
無知が故の失敗もあった。
そのことを思うと実に残念である。
歴史が浅いから、経験が少ないから。
これはいい訳である。我々はもっと勉強すべきであった。
我々にはいかなる時もベストなものを作り上げる義務があるのだ。
それでは勉強不足であった証拠を示そう。
例として我々にとって常に頭痛の種であった「ひび割れ」に関する文献を簡単に列挙してみる。
1957年 | Thoms.F氏著 | 鉄筋コンクリートの付着とクラックに関して | |
1965年 | 神山一氏著 | コンクリートのひび割れと鉄筋の露出 | 土木学会、コンクリートライブラリー第14号 |
後藤幸正氏、植田神春氏、満木秦郎氏著 | 鉄筋コンクリート部材の引張り部のひび割れに関する研究 | ||
1966年 | Broms.B氏著 森田司郎氏訳 | 鉄筋コンクリート部材ののひび割れに関する一連の研究 | |
Base.G氏著 | 鉄筋によるクラックコントロールに関して | ||
1970年 | Neville.A氏著 | コンクリートの材令による収縮応力とクリープの関係に関する研究 | |
1972年 | Ferguson.D氏著 | コンクリート表面から鉄筋表面までのひび割れ幅に関する実験報告 | |
1973年 | 森田司郎氏著 | ひび割れの制御設計(諸外国の制御式の根拠の説明) | コンクリートジャーナルVol11No9Sep.1973 |
1974年 | 森田司郎氏著 | コンクリートの収縮応力計算例 | 日本建築学会大会便覧概集 1974.10 |
簡単に列挙しただけでも、これだけの有用な文献があった。
もしこれらを積極的に頭脳の中に取り込んでいたなら、
かなりの部分でトラブルの回避が可能だったはずである。
今となっては非常に残念としか言い様が無い。
かく言う私自身も、PCのことをまじめに勉強したのは
1980年になってからであった。
森田司郎氏、小坂義夫氏著の、大学の講義用の図書だったと思う。
それは私にとってエポック的な(新時代の幕明け的)教材であり、
その時の自分の無知さを痛感させられた記憶がある。
更に悔しいことには、その本は当時より5年も前の
1975年に出版されたものであった。
もっと早く勉強する気になっていたなら、と残念で仕方ない。
現在でも十分役に立つその本は、残念ながら絶版となってしまった。